「彼女、欲しいな……」
そんなことをつぶやきながら、俺は今夜もネットで恋愛マッチング・サイトのサーフィンに興じていた。
「婚活は結婚が前提だしな……とりあえず彼女が欲しいってのをかなえてくれるサービスって、以外にないんだよね……」
ブラウザのウィンドウは検索ログで埋め尽くされている。
いったいいつまでこんなことを続けにゃならんのだか。
「うーん、やっぱ物理的にリアルな世界で探すしかないってことか……おや?」
これは?
なんだかヘンテコなタイトルのサイトがあるぞ。
「サブスクリプション彼女……」
どういうことだ?
定額制で彼女とつきあえるサービスとか?
「どれどれ」
ほうほう。
どうやらそのとおりみたいだ。
一か月につき千円ぽっきりで?
お望みのタイプとマッチング?
従量課金などのオプションはなし。
パートナーとの同意があれば結婚までステップアップもできる。
ほう、ほう……
「すごい、これはいいぞ……おお、これは……」
なんと、一か月間の無料体験が可能!?
すごいぞ!
これはいい!
なんてすばらしいサービスだ!
どうしていままでこんないいものに気づかなかったんだ!?
よし、善は急げだ!
「ワンクリックでサービス開始、と。これも簡単でいいねえ」
お、申し込み画面が出てきたぞ。
「えーと、インフォメーションにしたがって好みのタイプを入力っと」
ぱちぱち、かたかた。
「そして俺のパーソナルを入力ね」
ぱちぱち、かたかた。
「よしっ。で、マッチングをクリック」
弊社独自開発のAIが登録者情報からマッチング中です。
一分程度お待ちください、か。
なるほどなるほど。
すごい時代になったもんだな。
でも、機械に決めてもらうってのは、なんだかね。
「お」
マッチングが終了いたしました。
こちらの方でよろしければマッチングを完了いたします、か。
どれどれ、どんな人なのかな?
「おお、こりゃすごい……」
年齢はタメ。
地元国立大学文学部を卒業後、大手出版社に就職。
採用後は営業部に配属で現職。
当然というか、パートナーはなし。
こんな田舎としてはチートなスペックだ。
それよりも何よりもこの容姿、うん、いい。
黒髪、セミロング。
目はパッチリしてて、明るい感じ。
ヒマワリとか似合いそう。
うむ、俺のタイプだ……
それに出版社の営業部勤務ってのもいい。
俺、趣味で小説とか書いてるし、もしかしたらプロに見てもらえるチャンスかも!?
あれよかれよでデビューとかできちゃったりして!?
さ、最高だ……
よしっ、この人に決定!
この人に決めるをクリックと。
「ふむふむ。なんと、さっそく日時と場所を指定してきたぞ。よしよし、入力入力っと」
ぱちぱち、かたかた。
「おっしゃ。明日の日曜日、公園前で待ち合わせか。うーん、楽しみだなあ。俺もついに運が向いてきたかな!?」
衣装は仕事で使ってるビジネス・カジュアルが無難だろう。
朝九時に時間は指定したから、寝坊なんてできないぞ。
よし、今日は風呂に入ってとっとと寝よう!
ふふっ、なんだか楽しいなあ。
こんな具合でドキドキワクワクしながら、俺はその日、床についたのである。